報告文〜2000年10月1日
女性とアルコール依存症〜 ともにつくる私たちの物語 〜
 WCK開設5周年シンポジウムは「女性とアルコール依存症」をテーマに行った。当日、シンポジストの一人として参加予定だった「しなのアメシスト」の池田(諸川)倫子さんが体調がよくなくて出席できず、急きょ池田さんからのメッセージをスタッフの友杉が代読した。中年期以降にアルコール依存症を発症した松下さんと若年期に発症した池田さんの両方からの話を聞くことによって、そこに共通して流れる女性とアルコール依存症の問題がより鮮明に見えてくるのではないかと期待していたので、非常に残念だった。

  日本で初めて女性ミーティングを始められた新阿武山病院の今道裕之先生のお話は、時間の関係もあって、女性のアルコール依存症についてもう少し突っ込んだ話を聞きたいという思いもあったが、アルコール依存症について基本的な説明をしていただき、大変勉強になった。
 続いてWCKの松下美江子と井上摩耶子が話した。このほど出版された『ともにつくる物語』と同様にアルコール依存症の体験者である松下さんが体験を語り、井上さんがフェミニストカウンセリングの視点から読み解くという内容だった。フェミニストカウンセリングの視点は、女性のアルコール依存症問題の力になり得るはずなのに、ともすれば横文字が多くてとっつきにくいと思われているのかもしれない。しかし、松下さんの体験をからめて考えていくと、非常に身近に考えることができるのではないかと思う。

 松下さんは「自分は夫の対面を気にして、『いい奥さん』でいたいという思いが強かった。人から頼まれるとNOと言えなくて引き受けてきたけれど、自分の本当のつらさや苦しさ、悩みを友達にも訴えてこなかった。その状態に風穴を開けることができたのは苦し紛れに『アルコールで苦しい』と友達に訴えたことだった。そこから、生きる方向に向かっていた。でも、断酒会の中で、再びいい子ちゃんをしていた」と語る。井上さんは「女性のアルコール依存症は『いい子』でなければ認められない女性が表出を禁じられている怒りをなだめ、しずめるためにアルコールを使っていると考えられる。そして、AAなどでアルコール依存症からの回復には無力を知ることが必要と言われているが、女性アルコール依存症の回復のために必要なのは、無力ではなくエンパワーメントである。さらに、従来の男性的な自立イメージである『個の自立』から『関係の中の自立』への変換が必要である。松下さんが友達に『助けて』と言ったところから回復につながったのはまさにそのポイントである。女同士の相互関係をもっと評価していくことが重要」と提起した。

 二人の話は何回も聞いているが、あらためて感じたのは、松下さんが自分自身を語ろうとする時のこれでもかこれでもかというほど自分を素材にしようとする正直さ、真摯さと、その松下さんの話をがっちり受け止めようとする井上さんの確かなまなざしである。

 松下さんは自身の中絶体験を『ともにつくる物語』の冒頭で語っている。これまでほとんど誰にも語ってこなかった、話せなかった体験だが、語りたい、ともかく語らないことには前に進めないという思いがあったのだと思う。そして、それを語ることのできる相手は井上さんだった。それを語り、しっかり受け止められたということは、とても大きな意味のあることだったのではないか。

 WCKがこの5年間してきたこと、これからもしていこうとしていることはどういうことなのだろうか。WCKは最初の公開講座で「女性とアルコール依存症」をテーマに取り上げ、5周年で『ともにつくる物語』を出版し、シンポジウムでも再び同じテーマに取り組んだ。こうしてみるとフェミニストカウンセリングは、シスターフッドによって女たちの物語をともにつくっていく作業なのだとあらためて感じさせられる。WCKに関わるたくさんの女たちと『ともにつくる物語』をこれからも作っていきたい。