公開講座報告書

2018年公開講座報告

当事者の立場に立った性暴力被害者支援を考える

大石ゆか・周藤由美子

《パネリスト》

田村秀子さん(産婦人科医、田村秀子婦人科医院理事長)

大脇美保さん(弁護士、京都弁護士会所属)

藤田光恵さん(心療内科医、ふじたみつえクリニック)

《コーディネーター》 

周藤由美子(フェミニストカウンセラー,ウィメンズカウンセリング京都)

《ゲスト》

伊藤詩織さん(ジャーナリスト、 『Black Box』文藝春秋 2017年 著者)

 

9月22日に開催された公開講座では、ゲストに伊藤詩織さんをお迎えしました。京都性暴力被害者ワンストップ相談支援センター(以下、京都SARA)の連携先として関わっていただいている方々をパネリストにむかえ、この3年間で京都SARAがどのような取組みをしてきたのか、よりよい支援のためにはどのようなことが必要かを話し合いました。伊藤さんからは当事者として、ジャーナリストとしてのご意見をいただきました。

〇詩織さん 「Me too運動で変わったところ、変わっていないところ」

このように人前で話せるようになって、見ている景色が変わったと感じる。メディアでも性暴力について話しても良いという雰囲気になった。「被害者はこうでなければならない」という前提に対して疑問を持ったり、議論が生まれた。Me too運動によって、スウェーデンでは今年、刑法の見直しがあり、明確なYES(合意)がないとレイプになるという法律になった。日本ではまだ暴行脅迫要件がある。被害の時、こわくて抵抗できなかったら、刑法で罰することができない。

また、イギリスでは、性暴力被害者に対して生活支援も行っている。支援員が、住む場所や、就学先等との交渉もして、被害者がどう生活に戻っていくか、安心・安全を確保するという視点で支援がされている。

私も被害から3年経っているが、事件に関係ないところで急にフラッシュバックがあった。目に見えにくい傷だが、民族浄化などでレイプは兵器として使われてきたように、被害者にも周囲にも大きなダメージを与えるものだと改めて思った。私も批判や脅迫を受けて、街に出るときは変装したりしたが、隠れているだけで苦しくなった。変装なしで歩くようになったら、街で声をかけられて、応援されることの方が多かった。自分を隠さないで、自分が信じていることをすることが大事だと思う。

 

〇周藤 「京都SARAの支援について」

京都SARAは京都府が設置して、WCKが、受託して運営している連携型のセンターである。京都SARAの特徴は、ジェンダーの視点による支援で、「あなたの望まない性的な行為は全て性暴力です」として幅広い支援を行っている。性暴力を容認する文化がまだあり、社会の意識や法制度を変える必要がある。

公費負担で10回まで無料でカウンセリングを受けられる制度があり、WCKでは、この3年で93人539回の面接を実施した。10回終了したのは24人、1回のみ、2~4回という場合も多い。被害内容では強姦が一番多かった。年代は10代、20代で半数以上を占め、被害の時期も1年以内の急性期が多いという結果になった。年齢が高くなったり、過去の被害や重複した被害の場合には10回で終了せず継続する場合もあるなど、さらに詳しく内容を分析する必要がある。被害直後の若年の被害者に対して早期の心理教育を行うことで症状の深刻化が防げるなどの効果もみられる。

 

〇田村さん 「産婦人科 医療機関の責務」

被害者は警察や京都SARAからの紹介で受診する場合もあるが、性被害にあったことは言わず、他の内容を主訴として来院する方もいる。緊急避妊薬のみ希望をしたり、漠然と性感染症の心配を訴えたりする場合は、性被害があったのかの確認を行う。京都SARAのリーフレットを渡しても、顔見知りからの被害が多いため、会社を辞めなければいけないかも等、生活の心配が先立ってしまい支援につながりにくい。産婦人科では外傷の診断も行い、診察記録に残している。性感染症は挿入行為がなくてもうつる可能性があり、触れられたのなら、検査する必要がある。緊急避妊薬は時間が経つほど効果が下がっていくため、早ければ早い方が良い。証拠採取は強制ではないが、被害直後に採取する必要がある。採取をしてから今後のことを考えても良い。

 

〇藤田さん 「性暴力被害による心身の影響、支援と課題」

京都SARAに関わるようになり、性暴力被害者の急性期の患者がこれほど多いことに驚いている。これまでは、精神科医療への敷居の高さがあったのではないかと感じる。通院を途中で中断する人も多く、通院自体が被害を思い出すことでもあり、PTSDの回避症状とも考えられる。統計ではレイプ被害者では1年後でもPTSDの症状が残っている人が多い。被害者の主訴は、職場や学校へ行けないという生活をどうしていくかという相談が多い。休学・休職に向けての診断書や傷病手当金の書類作成、裁判に向けての意見書作成も行ってきた。今後の課題として、暴行脅迫要件がないと起訴が困難である法律の限界がある。顔見知りからの被害では、権力関係や恥辱感で沈黙してしまう人が多く、顔見知りでない人からの被害では「凍りつき」反応で抵抗できない人は多い。性的同意の問題も、明らかなYESがなければ同意ではないのに、被害者が「同意ではない」ことの証明をしなければならない。若年層だけでなく、中高年の性教育も必要だ。

 

〇大脇さん「法律相談の実際」

京都SARAから法律相談の依頼があった場合、京都弁護士会では研修を受けた弁護士の約50人が登録している名簿から2名を紹介している。京都SARAができたことで、急性期の相談者に対して法律相談をすることが増えた。逆に、被害から長い年月がある相談もある。弁護士が活躍できたケースとしては、レイプドラッグの被害を起訴できたことがある。尿や血液検査ではなく、被害後数か月経ってからの頭髪の検査で被害の立証できた。被害者は記憶がなく、裁判によって加害者からされたことを知り、ショックを受けられることもある。起訴できたからよかったというわけではなく、被害者の苦しみは続くということを念頭に弁護士の責務を果たす必要がある。昨年の法改正で、肝心の暴行脅迫要件が変わらないままになってしまっている。検事の中には、顔見知りからの被害はレイプではない、という人もおり、相談者が大変傷ついたケースがある。法改正につなげるためにも事例を集約して働きかけていきたい。

 

◆パネルディスカッション

詩織さん:私が被害後すぐに行動したのは、緊急避妊薬をもらいに行ったことだった。産婦人科では医師が私の目を見ないで「何時に失敗したの?」と聞かれた。被害を受けたのかどうかも聞かれなかった。産婦人科で緊急避妊薬を求める人にはチェックシートを渡して、「レイプされましたか?」を◯×で書くのはどうか。スウェーデンでは、証拠採取は被害から10日間はできて、体の20か所くらい調べることになっている。日本でも、デートレイプドラッグの認知が広がってきた。院内集会で要望書を出したら、各警察署に通達が送られた。しかし、現場レベルではまだ認知が広がっていないかもしれない。

田村さん:全ての産婦人科で被害に気づくのは難しいところがある。性被害にあったか書けるようなチェックシートを、受付の事務員や看護師などに見られないように封筒に入れて出すようにしようかと考えている。レイプドラッグは、産婦人科で尿と血液を採取しても京都SARAで保管できない(まだマニュアルができていないため)。

大脇さん:スウェーデンの刑法改正を紹介してもらって、とても参考になる。日本では性的同意についての法的な定義がないので、考えさせられる。レイプドラッグの事件でも、加害者は同意を主張してくることもある。意識がない状態で同意はあり得ないのに。

詩織さん:同意というには、性行為をYESと言葉で伝えるか、行動で示す必要がある。「凍りつき」反応で、返事がないのを同意とするのではなく、反応がアクティブでないといけない。ワンストップセンターの住所が非公開であるのは、安全の配慮のためと聞いているが、海外では、場所が公開されて、予約なしで駆け込める。男性用のレイプクライシスセンターもあり、来てもいいよというメッセージになっている。

藤田さん:性的同意は、同意によってどういうことが起きるかという判断力があるかどうかだ。レイプドラッグだけでなく、アルコールでも健忘があるし、知的障害がある場合など、検討することはある。「仲よさそうに歩いていた=性行為の同意」ではないと思う。

周藤: 最後に性暴力被害者支援のために何かしたいと思っている方にメッセージをお願いします。

詩織さん:BBC放送の取材を受けていて「しょうがない」という日本語を英語に訳すのが難しかった。「しょうがない」とあきらめたり、そういうものだと思ってしまう。自分が実名で告発したのは一つずつできることはすべてやってみて、これしかないと思ってやったことだ。しょうがないとあきらめるのではなく、必ず解決策もあると思うので、皆さん行動してください。

(WCK NEWS第88号より転載)

 

 

 

2018/11/30 [公開講座報告書]