出版物

『家族写真をめぐる私たちの歴史』

■『家族写真をめぐる私たちの歴史
― 在日朝鮮人・被差別部落・アイヌ・沖縄・外国人女性』(お茶の水書房)

書名
家族写真をめぐる私たちの歴史
―在日朝鮮人・被差別部落・アイヌ・沖縄・外国人女性
著者
ミリネ編 皇甫康子責任編集
出版社
お茶の水書房
概要
日本で暮らすマイノリティ女性24人が「家族写真」を通して、私たちの歴史、私たちの表現を語っていく。WCKスタッフの一人である福岡ともみも執筆者の一人。写真を見て、語りを聴いて、被差別女性のメンタリティを感じて、権力者の歴史ではない、「私たち」の歴史にふれてほしい。 フェィスブックもあり。https://www.facebook.com/kazokushashin/

目次
序章 なぜ「家族写真」なのか
―ジェンダー、民族マイノリティと表現活動 皇甫康子
第一章 在日朝鮮人女性たち
第二章 被差別部落の女性たち
第三章 アイヌ、沖縄、フィリピン、スリランカ、ベトナムの女性たち
◆萩原弘子さん(芸術思想史、黒人文化研究)に聞く
「家族写真」に写らない話を読み解くー写真という表現メディアのおもしろさ
資料:家族写真をめぐる私たちの歴史年表

価格
定価 2,420 円 (本体2,200 円+税)

【書評 : WCKニュース第79号(2016年7月発行)掲載】

「すぐ読める!」と言い切れる位、一気に読める本。とはいえ、内容が薄っぺらいと言っている訳ではない。この本は、まるで…たくさんの織り手がそれぞれのパートを自分の好きなように織っていき、1枚の布になったときに「なんとも言えない味がある」と見惚れてしまうような布…のような本。音楽好きが集まって、それぞれの楽器を奏でる。好き勝手に演奏しているようだけど、それは不協和音ではなく不思議なハーモニーになって聴く側は「聴き入ってしまう」というような本。この本は、24人の女性たちの「家族」がつまっている。1人ひとりがバラバラに家族を書き綴っているようでいて、しっかりひとつの「メロディー」が聴こえてくる…そんな本だ。
私たちがこれまで触れてきた歴史(主に学校で勉強した歴史)は、マジョリティのなかでも権力を持つ人の歴史だろう。でも、過去が現在につながっているのなら(つながっているのだけど)、本当の歴史は「日々の生活の積み重ね」であるはず。私たちが生きていること自体が歴史を作っていっていることになる。この本の書き手である24人の女性たちは、在日朝鮮人、被差別部落、アイヌ、沖縄、外国人であることと、女性であることを生きている。その「日常のなかにいる家族」。それぞれの家族の物語の登場人物からは、力強さを感じる。その力強さは、見えない者、いない者にされがちな存在である差別されている人が生き延びる強さだと思う。この力強さは、「歴史」のなかでは《ないもの》とされてしまうものだろう。だから、自分の言葉で、力強さをつなげていく必要がある。
この本は「自分が言わないと語り継がれない歴史」をつなげていくためのバトンでもあると思う。今、「歴史のなかに、自分は埋もれているのか、一部になっているのか、はじかれているのかさえわからない」時代になった。だからこそ、この本に出合えたことが幸せだと感じる。そして、私も、自分の言葉で「私の存在」を語り継いでいきたいと思う。いつまでも「自分の言葉で自分を語り継げる」社会を作る一員でありたいと思う。(友杉明日香)

2021/11/12 [出版物]