公開講座報告書

2021年公開講座報告:孤立している若い女性の「SOS」を聴く~若年女性支援の現場から

2021年9月26日に京都府女性つながりサポート事業の一環として開催された公開講座の報告をしたい。

若年女性を取り巻く現状~コロナ禍で孤独を深める女性たち~

(特定非営利活動法人BONDプロジェクト竹下奈都子さん・浅井朋乃さん)

顔の見えるつながりを大事にしているので、つながった「女の子」たちに会うために全国に出向いていたが、コロナ禍でなかなか会うことができなくなった。

10代20代の生きづらさを抱える女の子のための女性による支援をしている。主な活動内容は、「聴く。」(メール相談、面談、パトロール、街頭アンケート等でありのままの女の子たちの声を聴き、表現できる場を作る)、「伝える。」(『VOICES MAGAGINE』を発行、講演、イベント、研修会を開催し、女の子の声を知ってもらう)、「繋げる。」(弁護士や専門機関と繋げる、一人一人に見合った支援、おとなに繋げる)の3つを掲げている。

◆「動く相談窓口」として、女の子たちが相談しやすい場を作る活動をしている。繁華街に出て女の子と話す「街頭パトロール」、「ネットパトロール」にも力を入れている、ツイッターや「お悩み掲示板」を作って声をかけ、相談場所を伝えている。アウトリーチである。

実際にLINEやメールを使って相談してくれる。その中で実際に会いに行ったり、今はオンライン面談、出張面談をしたりしている。保護が必要な場合はシェルターや宿泊施設、ホテルを使って保護をする。中長期的支援が必要な場合は、年齢によって児童相談所、女性相談センターや生活困窮者自立支援の窓口につないでいる。家にも帰れず、公的施設にもつながらない場合は、シェルター「ボンドのイエ」で、中長期保護という形で何か月か何年か一緒に過ごして自立を目指している

問題の背景としては、さみしい、苦しい、しんどいという心の悩み、精神疾患や依存症等のメンタルヘルスの問題を抱えている。その背景には家族の問題があり、家にいられなくなって、ネットカフェや友人宅を転々としている。仕事がない、働けない状態で家出をすることで経済苦、貧困状態の子が多くいる。そんな中で性被害に遭うなどの相談が多く寄せられている。

実際に出会う場が必要ということで、2020年10月に横浜市にカフェ型相談室を設立。面談やLINEメールの対応に使っている。まだ動くことができない、相談までは望んでいない場合の相談のきっかけつくり、気軽に立ち寄れる場所としている。その中で一時保護が必要な場合には緊急一時保護や弁護士さんとつないでいる。横浜の街に出かけて街頭パトロールの声かけ、同行支援もしている。

「ボンドのイエ」は公的支援に繋がれない、制度にたどり着けない10代20代の女の子のための自立準備のための家。次に繋がらないまま18歳になり児童福祉施設による支援が終了していたり、学校には通えているが虐待家庭にあり居場所のない大学生が共同生活をしている。また、ボンドのイエ2(シェルター)とボンドのイエANNEX(ステップハウス)を作り、家事や薬の管理、お金の管理をしながら一人暮らしまでの支援をしている。

座間市のアパートで9人の遺体が見つかった事件(2017年10月)をきっかけに、団体の活動にも国にも動きがあった。身近な人に本音を言えない、頼れずネット上に居場所を求める10代20代の被害者が、ボンドにつながる女の子と重なった。今の若年層は当たり前のようにSNSとのかかわりがある世代であり、相談のハードルを下げるためにLINE相談の強化、ネットパトロールの実施でハイリスク者の早期発見・早期介入にも力を入れた。

入り口部分でのやり取り、信頼関係の構築を同世代の女性スタッフが中心に担い、その後コアスタッフがその後の支援につなげている。LINE相談では完結しない。

◆「コロナのせいで」という言葉は聞かれないが、コロナによって生活スタイルや家族関係が変化したことについての相談がある。緊急事態宣言等により出張面談や地方への同行支援に規制がかかり、連携先を求めている。自分の抱えている問題が大変なので、セルフネグレクトがあり、「コロナどころではない」希死念慮から「感染してもいい」と思ってしまう状況がある。

行き場がない少女たちは、家が安心できない、学校にも行けない、部活動が停止しているなか、状況を変えたいが、家出しかない。行く当てがなく彷徨う、コロナの影響で店が早く閉まる、夜間深夜は居れる場所がない等で、SNSを利用して居場所を求めたり、町で声をかけられた人について行くことになっている。家にいるしかなくて自傷行為や自殺未遂がひどくなること、親からの被害が大きくなることもある。

「ネットのつながりからLINE相談からリアルなつながりへ」。2020年4月~2021年3月で、ネット上でのアウトリーチ活動からLINE相談につながった人数は1,594人、LINE相談から面談につないだのは359件、LINE相談から電話・オンライン相談へは183件、ボンドで保護した人は27人。

気になる投稿をしている少女のなかで、その時の投稿、過去の投稿、つながっている人を見て判断しながら、細い糸でつながり、ボンドを認識してもらうケースから、直接メッセージする場合もある。第三者としてお悩みの相談に応えて、相談機関のURLを伝えることもある。

コロナ禍では、「助けてあげるよ」「サポートするよ」という名目で、「死にたい」「死にたい人とつながりたい」「裏バイト」「闇バイト」(制服や下着の売買)「無料で泊めてあげる」というSNSの書き込みが大量発生している。

「全国的に連携できる体制を整えていきたい」。毎年「BOND白書」を発刊し、ホームページには、「コロナ禍の若年女性へのアンケート調査」を掲載しているので、参考にしてほしい。(https://bondproject.jp/)

『カルーナ』 の<safe space>を創る取り組みから

公益財団法人京都YWCA 山本知恵さん

自立援助ホーム(全国自立援助ホーム協議会http://zenjienkyou.jp/)は、全国に約170か所あり、それぞれが特徴をもって活動している。対象は中学卒業後(15歳以上)20歳までの児童で、鑑別所、少年院退所後や養護施設利用後であったり、施設不適合だったりで「帰る家がない」、家出中で「帰りたくない」「帰れない」、一時保護の後「帰したくない」子どもたちが利用している。

ホーム利用後は「一人暮らしで自立していく」前提であるが、それ以前の心身の健康を取り戻すところからの支援が必要である。

2015年4月に開所したカルーナは、これまでに33名の利用者がいる。平均利用期間は1~2年間。利用開始は、19歳から15歳の4月1日の時からとさまざまである。今まで施設利用をしていない(自宅から入所する)子どももいて、施設への嫌悪感をもつ子どももいる。ほぼ全員が被虐待の経験をもち、不登校、中途退学の経験が多い。大人を信用できない、家族はムリ、人との関係を切りたくなるという言葉をもって入所してくる。

受け入れ制限をしない方針だが、今の状況を変えたいというモチベ―ションだけでなく、家族が施設利用をどう思っているかというところも影響する。

“いじめ”、”学習についていけない”、”原家族が安心安全な場所でなかった”という居場所のない経験をしている。「人間関係構築の難しさ」がある。生きのびるために身につけた術(すべ)だが、かかわりを切る、自分を消す、引きこもる。他方、非行や反社会的な行動をとることにつながってしまう。人との関係において、うまくいかなかった経験、どうせ裏切られる、必要とされていない、そこにいても意味がないという困難を経験していて、好転させることが難しい。縦、横のよい距離感がつかみにくいところがある。

発達障害の特性や精神障害を持っている場合も多い。愛着障害や被暴力のトラウマの経験を持っていることが共通の特徴と言える。それまで生きのびてきた中で人間関係の経験が乏しく、彼女たちに関わってきた偏った家族があり、自力で関係を獲得していく経験を持つことが少ない。

学校でも病院でも心理治療施設でもないカルーナでできることとして、①毎日の「生活リズム」をつくる、誰かがつくってくれたご飯を食べる、予定を立てて行動する、健康管理を促す等。②学習支援。③収入を得るためのサポート。そして、「暴力的ではない」やり取りを経験し、人と関わることはしんどいことではないと、関わることに希望を持てる、そんな大人もいると知ってほしい。

カルーナの特徴として「できるだけ受け入れ制限をしない」がある。ひきこもり系でもやんちゃ系でも。就労していなくても就学していなくても。ひとりひとりが、自分の生活を自分で考えて決め実行するお手伝いをする。新しい体験へのチャレンジとうまくいかないこと、失敗体験を乗り越えていく経験をする。社会に近い、YWCAという多様な人の行き交うコミュニティで、社会経験を積む。

「safe space」を確保し存在を受け入れてもらえる場でありたい。門限なし、外泊OKで、自由な中での自己決定を大事に、自分が何時に帰るか予定をつくり、おとなに伝えて動くことを応援される関係性を大事にしている。暴力を否定して、対話するやりとりをしている。「人との関係づくり」経験をもつことで、自分の暮らしを創っていく可能性を広げ、人と関わり、社会につながる媒介となる。自由であることがどんなふうに彼女たちに生かされるか、課題である。

カルーナで受け入れられた経験でおとなとの関係づくりに希望をもってほしいが、現実社会とのギャップが大きくなりすぎないようにと考えている。「自立」のイメージを共有していくことが難しい。

退所者の多くが一人暮らしをしている。役所、病院への同行、部屋の片づけ、郵便物の整理、金銭管理などのサポートをしている。地域で生活していくために、知っている人、つながりのある人を少しずつ増やすこと、居場所を増やすことが必要だが、「なんで働けないのか」「どうしてできないのか」という声をかけられてしまう。暴力のトラウマ、発達特性への理解が広がるといいと思う。

困りごとができたときに、誰に頼ればいいのか、経験が足りなく、うまくいく気がしない。今までは、相談すると怒られた、うまくいかないと馬鹿にされた経験があり、それを払しょくする経験が必要だ。

「施設や里親家庭で生活していた人の生活やサポートに関するアンケート調査」で、2980人のリアルな声を知ることができる。「今の暮らしで困っていること、不安なこと」の第1位は生活費や学費のこと、続いて、将来のこと、仕事のこと、人間関係のことである。(三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「児童養護施設等への入所措置や里親委託等が解除された者の実態把握に関する全国調査」https://www.murc.jp/wp-content/uploads/2021/04/koukai_210528.pdf)

SOSを聴くために、カルーナに関わってきて大事に思うこととして、「safe space」の要素を次のようにまとめた。知っている人になっていくこと。自己開示できるしんどいと言える、何もしなくてもそこにいていいと思える場所であること。人と関わってよかったと思える力が発揮できる体験ができること。失敗してもやり直しができる場所だと思ってもらえたらSOSを拾っていけると思う。

今後の課題として、退所者支援とともに、子どもに背負わせない社会にしていく大人の責任として家族支援、養育者支援が足りないと思っている。彼女たちの母親にも支援者がいなかったことを痛感している。

利用者の一人と新聞記者の方とのやり取りが本になった。『あっち側の彼女、こっち側の私—性的虐待、非行、薬物、そして少年院をへて』(朝日新聞出版)。

多様な居場所が増えてほしいと思う。そして、若者にとって「活用されるおとな」になれればと思う。

フェミニストカウンセリングの実践から

ウィメンズカウンセリング京都 周藤由美子

ウィメンズカウンセリング京都(以下、WCK)は、1995年9月に開設、2007年に営利目的ではなく、仕事として継続していけるように株式会社として法人化した。2015年9月からは京都性暴力被害者ワンストップ相談支援センター(京都SARA)の運営を委託されている。フェミニストカウンセリングは女性による女性のためのジェンダーの視点によるカウンセリングである。

これまでの若年女性の相談は、あまり多いとは言えなかった。その原因としては、有料のカウンセリングや講座への参加は費用負担が大きい、行政や男女共同参画センターの相談はある程度の年齢層の女性の相談が主流である、また、電話での申し込みのハードルの高さが挙げられる。通話機能のないスマホであるとか、家族がいて話しづらいということもある。そもそもフェミニストカウンセリングが知られていないことが言える。

京都SARAが開設され、被害者の相談を受けることで若年者の相談に関わることが多くなった。こころのケアが重要であり、急性期のストレス障害やPTSDなどの被害の後遺症について、「性暴力というトラウマに対する当然の反応」であること、時間が経てば症状は軽減すること、適切なケアを受ければ回復は可能であることなどを伝えている。圧倒的に女性が多いが、男性やトランスジェンダーの被害者の相談も受けている。

SARAでは過去の被害の悩みを持つ方も含めて、10回まで無料の公費負担カウンセリングが提供されている。年代別では20歳代までが6割以上である。短い回数でのカウンセリングが若年層に多い。それは1年以内の相談の割合が多く、「回避」症状の影響かもしれないが、早期の心理教育によって症状の悪化を防ぐことができたと言えるかもしれない。

ジェンダーの視点に立つフェミニストカウンセリングの特徴は、個人的なことは政治的なことである、「支援してあげる」のではない対等な関係性(シスターフッド)、被害者の「回復する力」を信じる(エンパワーメント)があげられる。またジェンダーの視点によるトラウマカウンセリングの実際は、「あなたは悪くない」ことについて丁寧に話し合う、性暴力被害のトラウマ反応についての心理教育、外傷ストーリーの再構築、社会との再統合に向けたサポートがあげられる。

SOSが出せないことも、「困った人」「その人の問題」ではなく、「何かがあったから」「そうなる理由があったから」という視点が必要である。特に発達性トラウマ障害などは身体からのアプローチも重要である。

特に若年の方に伝えたいトラウマ反応の一つは、不特定多数との性的な関係や性風俗で働く、DV関係を繰り返すなどでみられる「外傷の再演」についてである。周囲も被害者自身も理解できず苦しむことがある。それは、被害が実際にどういうことだったかわからなかったり、今度こそうまくやってやる、男なんてそんなものだ、殺されてもいい、自分を傷つけたいと考えてしまうことが起こっている。また、自分が必要とされる存在と感じられる、危険や怖いことが日常でなじみ深い感覚となっていることもある。

ICD-11(国際疾病分類第11版)の診断基準にある複雑性PTSDの症状は、BONDさんやカルーナさんで出会われる女性たちと深くかかわっていると言える。

回復のために必要なこととして、「自分を大切にする」ことは大切なメッセージである。自己尊重感、自己責任論、境界線を引くこと等をテーマに話し合っている。症状は「このままではやっていけないよ」というSOSのサインとして、せっかくのそのサインを大切にしたいと伝えている。

「誰にも言わないで」と相談したことが別のところに伝わってしまい、ショックを受けてしまうこともある。「このおとなは信用できる」と思ってもらえるかかわりを継続したい。どうしたらつながっていけるかを学びながら、フェミニストカウンセリングで力になりたいと思っている。

今年度は、京都府女性つながりサポート事業として、経済的に困難を抱えた女性への無料カウンセリングや、ワークショップ・アウトリーチ講座、支援者養成事業を展開する。

*** 公開講座を終えて ***

WCKがこれから、若年女性、孤立している女性たちとつながるためのヒントを多く受け取ることができました。BONDさんが話された「ネットのつながりからリアルなつながり」については、若年女性との関係では私たちも変わる必要があると痛感します。そのうえで、顔の見える連携先としてのWCKの役割をこれからもより太くすることができればと願うところです。そしてカルーナさんから提示された地域にある多様な居場所のひとつとしてのWCKのこれからについても考えていきたいと思います。

100人もの方の参加を受け、多くのメッセージもいただきました。さまざまな方々と信頼関係を築きながら心理的支援と社会の変革をこころざすWCKの活動を今後も応援していただければ幸いです。

シンポジストの皆さんへの感謝と共に。

竹之下雅代

(WCK News第100号より転載)

2021/12/01 [公開講座報告書]