公開講座報告書

2017年 公開講座報告

2010年代 フェミニズム時代の再来か!アメリカの若者ムーヴメントを知る。

昨年2017年11月26日(日)、ウィングス京都で、おふたりのシンポジストをお招きして公開講座を実施した。おひとりは同志社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科准教授で、フェミニズム、クィア理論、視覚文化研究者の菅野優香さん(今号に寄稿もしていただいた)。そして、同志社大学院生で、ケアの倫理と民主主義理論を研究中の對馬果莉さんである。コーディネーターはWCKの井上摩耶子がつとめた。

最初に、井上からの問題提起—自分の頃とは違い、今の人たちは自由に生きているのだと思っていたが、京都SARAで若い女性たちと接していると、そうではないらしいと感じる。どうなっているのだろうか、と。

「アメリカの創造的フェミニストたち」というタイトルの菅野さんのお話は、「いまだに、こういうことに抗議しているなんて信じられない!」というカードを掲げる女性たちの写真から始まった。話題は米映画界のセクハラ告発を発端にSNSで拡まった「#Me too」運動へ。菅野さんはフェミニズムの新しい動き(第4波?)として、①ツイッター、フェイスブック、インスタグラムなどソーシャル・メディアの役割、②視覚的戦略の巧みさ(ユーモアのセンスと創造性)③セクシズムやレイプ・カルチャーへの抗議(女性への差別、権利の侵害、女性身体に対するさまざまな暴力に対し、創造的に連帯して立ち向かうこと)をあげる。

最近の事例として、10月末、現代アート誌発行人のセクハラを元従業員の女性が告発したことをきっかけにネット上で拡がった運動を紹介された。アート関係者が連名で公開書簡「We are Not Surprised(わたしたちは驚いていない)」を発表し、短期間に5000人以上の署名が集まった。発端はグループチャットであり、有名なワード・アート作品「権力の濫用は驚くに値しない」を引用し、この頃急逝したフェミニスト美術史家に捧げる形をとる。書簡は、性差別的規範を固持するアート界を批判し、「これ以上、私たちを沈黙させることはできない。沈黙させたり、無視したりできないほどに私たちの数は多い」と連帯を示す。

また、2017年1月、トランプ大統領就任の翌日に行われたウィメンズ・マーチ。ワシントンD.C.だけでも50万人、人種も年齢もセクシュアリティも多様な人々が参加し、アメリカ史上最大のデモとなった。健康保険、環境問題、LGBTQ、宗教の自由など様々な問題への取り組みがみられたという。参加者の多くが被っているピンク色のネコ耳帽子は、プッシー・ハット・プロジェクトだ。女性器を意味する、贈ることで、行進に参加できない人々にも自己表象の方法を提供するのだという。この帽子はTIME誌の表紙も飾った。ただし、新しいツールや方法を駆使した運動も、取り組んでいることは新しいものではない、と菅野さんは言う。男女平等から侮蔑大規模動員を可能にしたのはSNSを通じての交流であり、女性の権利を中心としながらも、移民問題や語をエンパワーメントに流用し、女性性と結びつけられるピンクをあえてシンボルカラーとする視覚戦略なのだそうだ。しかも、帽子を作りはほど遠い現実を前に、先駆者への敬意と仲間意識(タテの連帯)、人種・階級・セクシュアリティなど様々な差異を抹消しないヨコの連帯を意識したフェミニズム運動が粘りづよく展開されているアメリカの状況に勇気づけられた。

對馬さんは、「THE 2010’s 若手フェミ運動」と題し、ご自身が関わっている「怒りたい女子会」をはじめ、現在の日本で行われている様々な運動について具体的に話してくださった。「怒りたい女子会」の結成は2014年末、女性であるからこそ被る不利益、しんどさの「モヤモヤ」を言語化するワークショップを開催、そこでの気づきをもとにプラカードを作って「女子会デモ」をしたり、ミニコミ誌『コレアカ』(これ、あかんやつや)を制作した。活動のなかで、自己責任論が広まり「自分のせい」だと思わされている現代日本の女性の疎外状況が見えてきた。「自分のせい=孤立」から脱することが政治的に重要であり、そのためには、自分の感情や、自分が求めていることに気づくこと、表現することが必要だと對馬さんは話す。フェミニストカウンセリングと共通する視点である。

若手フェミ運動としてあげられたのは、〈アジア女性資料センターユースグループ〉〈ゆる・ふぇみカフェ〉〈性差別撤廃部会(在日本朝鮮人人権協会)〉〈明日少女隊〉〈ちゃぶ台返し女子アクション〉〈シールズ〉〈リデモス〉〈女性と人権全国ネットワークユースグループ〉〈パリテ・キャンペーン〉〈女子高校生サポートセンターColabo〉〈HIGH(er)〉 などだ。いずれもSNSを活用し、今はインスタグラムがいちばん影響力をもっているとのこと。

「フェミニスト」「フェミニズム」の定義をめぐる混乱も取りあげられ、日本語として浸透していない現状に考えさせられた。フロアから、フェミニズムのイメージは「上の世代に怒られるのでは?」というものだったが、違うとわかってきたとの声もあり、世代を超えてつながることの重要性を改めて認識した公開講座だった。

大槻 有紀子

(WCK NEWS第85号より転載)

2018/01/30 [公開講座報告書]