公開講座報告書

2020年 WCK25周年記念公開講座 報告 

<初めてのオンライン公開講座>

去る2020年9月20日、ウィメンズカウンセリング京都(WCK)25周年記念公開講座「WCKの今とこれから フェミニストカウンセリングの未来は?」を開催した。ご参加いただいた皆さま、本当にありがとうございました! 25周年記念ということもあり、できればお世話になった皆さんと顔を合わせて開催できればとも考えたが、新型コロナウィルス感染拡大防止の状況からZoomによるオンライン開催となった。オンラインでの実施を決めてからは、参加者の募集から案内、参加者への連絡、当日にスムーズに視聴してもらうための体制等々、細かい段取りを一から踏んでいった。集まって相談・準備することができない状況ですべてメールで調整して…と、煩雑で根気のいる作業だった。私自身は当日パネラーだから…と、すっかりお任せ状態だったのだが、今回、WCKスタッフのチームワークと底力を実感することができた。参加者は約80名。オンラインでないと参加できなかっただろう遠方からの参加者も多く、またずいぶん久しぶりに画面上でも顔を見ることができた方もいた。無事に初めてのオンライン公開講座を実現することができたことは本当によかったと思う。

当日は、まず周藤由美子が「性暴力被害者支援の今とこれから」、次に竹之下雅代が「DV被害者支援~何が変わったか、これから必要なことは何か」、最後に井上摩耶子が「フェミニストカウンセリングの未来は?」をテーマに30分ずつ話し、その後、質疑応答を行った。3人の話を以下に簡単にまとめる。

<周藤由美子「性暴力被害者支援」>

この25年でトラウマ研究や治療は大きく進展した。最近の刑法改正の議論でも法務研究所の調査においてトラウマ反応について言及されている。それには多くのサバイバーが声を上げたことで社会を変えたことが影響している。

WCKでは、2015年に京都性暴力被害者ワンストップ相談支援センター(京都SARA)の運営を受託し、公費負担カウンセリング(以下、CO)を実施するようになり、被害直後の相談を受けるようになったことが大きな変化である。

2015年8月~2020年7月までの5年間で公費負担COを176名942回実施した。そのデータをまとめると、1~2回で中断・終了するケースも多く、若年で被害直後の場合が比較的多い。それはフェミニストカウンセリング(以下、FC)を早期に実施することで、症状が深刻化せず回復につながっていることも考えられる。一方、10回実施したケースも46名あり、そのうち22名は11回以降も継続している。比較的、年齢層が高く、過去の被害も多い。過去の被害からの心理的回復については時間がかかるが、そういった方のCOニーズも高いということがわかった。

ワンストップセンターでの心理的ケアの必要性は高く、全国どこでもFCが受けられるようになればよいと思う。また、継続したセクハラ性暴力被害者の「迎合メール」などの対処行動への理解などを進めていくことが今後の課題といえる。

<竹之下雅代「DV被害者支援」>

女性たちの運動の成果でDV防止法が制定され改正を重ねているが、加害者からの支配は身体的暴力より不可視化されるようになった。また、児童虐待防止法が改正され面前DVとして支援が拡がったわけだが、DVからの離脱が困難な女性たちへの社会からの圧力がかえって大きくなったことも看過できない。

そして、“もっと”被害当事者(サバイバー)への支援が必要で、まず話を聴くことからであると提言した。特に母子の場合、DVサバイバーはDV被害者であることと虐待の加害者であることが複層していることを理解したうえでの支援が必要とされている。DVからの避難が叶った後の母子の支援にもジェンダーの視点が不可欠であり、それは女性相談、子育て相談にFCが取り入れられることでもある。子育て支援や性虐待への母子双方へのケア、トラウマの視点でサポートを考えるトラウマインフォームドケアに言及した。

今FCは、アドヴォケイト(代弁擁護)活動やトラウマを聴く共同性をもった社会への変革、「男性」中心社会から外れている(女性に限らない)被害者・加害者へのケア等、これまでの活動を深める必要に迫られている。特にDV被害者支援の領域だけではなく、刑事事件の加害者になったDV・性暴力・虐待被害者へのアドヴォケイト活動は重要な取り組みである。

<井上摩耶子「FCの未来は?」>

FCの理念は“the personal is political”(個人的な問題は政治的な問題である)である。

FCの技法としては、“CR” (意識覚醒グループ)の方法を継承するものであり、「ナラティヴ・アプローチ」と

同じ手法である。野口裕二著の『物語としてのケア―ナラティヴ・アプローチの世界へ』を読んで、FCの手法とナラティヴ・アプローチの共通点を確認し、心強く思った。ジェンダー教育、アドヴォケイト(代弁・擁護)などもFCの技法の特徴である。

性暴力被害者へのFCの実践としては、フェミニスト精神科医であるジュディス・L・ハーマンの『心的外傷と回復』にある回復の三段階に沿って①ジェンダー教育・心理教育により安全を確保し、②外傷ストーリーの再構築(無知の姿勢によるナラティヴ・アプローチによって)をし、服喪追悼をする。③の再結合では、裁判などにより加害者や性暴力を容認する社会と闘う中で、支援者と出会い、孤立無援を脱し、社会との再結合を果たす。

FCのこれからでは、若者たちが「同調圧力」にさらされている状況に対して、それと正反対のFCが必要とされているのではないか。最近、フェミニズムに関心が高まっているし、男性のフェミニズム本も興味深い。また、FCとして「ミソジニーの論理」についても考えていかなければならないテーマと考えている。

この後の質疑応答では、「CRで意見対立してしまうことはないのか」「ハーマンのトラウマからの回復の三段階の再結合についてもう少し説明してほしい」などの質問があり、初めてFCに触れる参加者もいらっしゃったようでうれしく思った。

時間の関係で、井上さんの話が、最後が急ぎ足になってしまったので、「もっとゆっくり話が聞きたかった」という感想も寄せられたが、今回の講座が「FCの未来」について考えるヒントとなるものであれば幸いである。

(周藤由美子・竹之下雅代)

WCKニュース第96号より転載

2020/11/01 [公開講座報告書]